TVアニメ「ベルセルク」
オリジナルサウンドトラック

2016.11.30 RELEASE
GNCA-1840 ¥2,500(税抜)

鷺巣詩郎、ベルセルクに再び降臨!
大ヒット作品を支える絶対的トラックメイカー・鷺巣詩郎による、TVアニメ「ベルセルク」のサウンドトラック。
OPの9mm Parabellum Bullet、EDのやなぎなぎのTVサイズ音源の他、劇中歌の平沢進の楽曲も加えた、珠玉の楽曲集。


【収録内容】

ベルセルク鷺巣詩郎作曲BGM
・OPテーマ 9mm Parabellum Bullet「インフェルノ」TVサイズ
・EDテーマ やなぎなぎ「瞑目の彼方」TVサイズ
・劇中歌  平沢進 「灰よ」
・劇中歌  平沢進 「Ash Crow」


11/30TVアニメ「ベルセルク」オリジナルサウンドトラック発売を記念して、
鷺巣詩郎×平沢進 による対談の模様ををお届け致します!

こちらの対談は、11/25発売のヤングアニマル23号にも一部掲載がされています。

◆劇場版からのタッグ「平沢+鷺巣」

――まず『ベルセルク』の印象をお聞かせください。
鷺巣 平沢さんが手掛けられた最初のTVシリーズ『剣風伝奇ベルセルク』があり、僕にとってもその印象が強いです。平沢さんは最初の音楽は、どのように関わられたのでしょうか?
平沢 ありがたいことに、原作の三浦建太郎先生が私の音楽を聴いて下さっていて、「自分の作品には平沢さんの音楽を使って欲しい」と言って下さり、お誘い頂いたんです。三浦先生はとても具体的なイメージを持たれていて、「この曲のこういうイメージでお願いしたい」とまで話されました。ミュージシャンは自分の活動以外のプロジェクトから音楽を依頼されると、自身をプロジェクトに合わせる必要があります。しかし『ベルセルク』の場合、私が普段から作っている音楽そのままで合ってしまうんです。しかも三浦先生もそれを望まれていたので、無理なく参加させていただけました。
鷺巣 オファーを受けた頃、作品のイメージはお持ちでしたか?
平沢 漫画やアニメ全般には勉強不足だったので、そこで初めて『ベルセルク』を知りました。曲のイメージは三浦先生からご指摘をいただいていましたが、私も取り掛かる前に原作を読まねば、と。以前から多くの支持を受けている漫画と聞いていましたが、ここまでディープで、物事の暗部を躊躇なく描く作品があるんだ、という印象を受けましたね。
鷺巣 そこから前シリーズの音楽を膨らませていったんですね。

――その頃、鷺巣さんは平沢さんの『ベルセルク』の音楽を聴かれましたか?
鷺巣 放送はリアルタイムで観ていませんでしたが、原作自体の凄まじさは知っていまたし、とにかく平沢さんの音楽が強烈でした。じつはその昔、平沢さんの P-MODEL のデビューと僕のデビュー時期がとても近かったので、ラジオ番組で一緒に曲がかかったこともあったんですよ。当時の僕の音楽は AOR とかフュージョン、平沢さんの曲はニューウェーブと呼ばれるもので全然違うものでしたが、編曲家としても仕事をしていた僕は、その現場で求められるがゆえに平沢さんのニューウェーブも吸収しなければならない立場でもありました。いずれにせよ『ベルセルク』という物語に平沢さんの音楽が乗ったら、それはすごいことになると直感していました。表現としては、ありえない闇の表現、裏側の表現というか...例えば綺麗な石なんだけど、その裏に張り付いている苔だったり、 虫だったり、そんな暗部まで付きつけられるような、そんな表現とでも言いましょうか。

――その後、鷺巣さんは劇場版『ベルセルク 黄金時代篇』三部作の音楽を担当されました。
鷺巣 ちょうど北欧で仕事をしていた時、まるで『ベルセルク』の設定そのもののような所で、劇場版のお話をいただきました。あまりに出来すぎたシチュエーションに運命のようなものを感じましたね。その一方、TVシリーズでの平沢音楽と『ベルセルク』の結びつきが完璧だったので、「鷺巣でいいのか」「皆を敵に回すのでは」という不安もありました。平沢さんも挿入歌を手掛けられるということを聞き「だったらこの際やっちゃおう!」「いや、作品のために身を引くべき!」と頭の中で、まさに天使と悪魔が戦っているような葛藤がありました。

――平沢さんは劇場版以降、鷺巣さんと一緒にお仕事をされていますが、いかがでしたか?
平沢 鷺巣さんはご自身の葛藤を吐露されましたが、私は劇伴は鷺巣さんに作っていただけてよかったと思うんですよ。
鷺巣 ありがとうございます!
平沢 鷺巣さんも感じられていると思いますが、私が全編の曲を作ってしまうと、出口がなくて救いようがないんですよね。『ベルセルク』の絶望感のあるストーリーに上手く寄り添ってくれて、絵と音楽の質感が近いため、多くの『ベルセルク』ファンが「平沢=ベルセルク」と捉えてくださっているのだと思います。ただ、絶望に三浦先生が光を与えようという意図があっても、私の音楽だと全部絶望で塗り潰してしまう。そこに鷺巣さんの格調とエレガントな闇が入ることによって、絶望のどこかに光が点滅する。私のドロドロとした音楽で、ないはずの闇まで出てきてしまうことを、鷺巣さんの音楽が防いでくれているんですよ。
鷺巣 お話を受けて「鷺巣でいいのか」と思っている一方、「じゃあ鷺巣の役割は何だろう」というのを考えていたんです。そこで思ったのは、自分は「大スクリーンで観る事のありがたみ」「劇場にふさわしい、古き映画の伝統」をやるべきだと感じました。特に『黄金時代篇』はアッパーで華やかな部分なので、自分はそこを表現すべきだろう、と。


◆アニメの心意気を伝える音楽

――曲作りでは様々なオファーがあると思いますが、どのように着想を得ていますか?
平沢 私の場合、ありがたいことに「平沢の音楽」というオファーなんですね。いわゆる「こういうシーンに合う、こんな質感にして欲しい」ということは言われたことがありません。だから自分の作風のいくつかある引き出しの『ベルセルク』のラベルの場所を開ければいいんです。着想以前に、もうすでにあるものなんですね。

――すでに作品のイメージが平沢さんの中で固まっているということでしょうか?
平沢 三浦先生が『ベルセルク』の表現でアクセスしている場所と、私の中にある『ベルセルク』の棚が、とても近いところにあるのだと思います。だから、そこさえ外さなければ間違いないだろうという、自己信頼みたいなものですね。逆に、アクセスしている場所が外れであれば、もう自分の音楽は合わなくなるという恐ろしい部分もあります。

――劇伴を鷺巣さんが作られるようになり、変化はありましたか?
平沢 媒体がTVやゲームの間は、まだ私の器で対応できましたが、それ以上のスケールとなると及ばない部分が出てきます。鷺巣さんは『ベルセルク』の音楽を劇場サイズのクオリティにバージョンアップしてくださったんです。劇場は私一人では荷が重いですが、鷺巣さんがいると、私は鷺巣さんが作られた上に胡坐をかける。非常に贅沢なところから出発させていただけました(笑)。

――新TVシリーズの音楽はどのように作られましたか?
鷺巣 まずはもう一回TVシリーズを、しかも作中でもかなりエグいところをやろうという英断に、スタッフの心意気を感じました。そしてその心意気が、いかにすごいことかを今のファンに伝えたかった。どれだけ背徳感まみれの作品で、それを表現するチャレンジ精神や姿勢を分かってもらいたいと考えましたね。

――その心意気がまずあっての音楽なのですね。
鷺巣 今作では劇場版の音楽をTVにダウンサイジングするのではなく、さらに違う方向へ持っていきたい。『ベルセルク』は平沢さんが最初に音楽をやられたTVシリーズから劇場版になった。スクリーンで上映されたものが、今度はまたTVに戻ってくる。そして今シリーズは、劇場版よりもっとアバンギャルドな内容なんですよね。突飛なことをするのではなく、『黄金時代篇』の煌びやかなところから、異次元であったり前衛であったり別方向へ行かなければならない。それを具体的に表現するために、劇場版で使った音楽的モチーフを握り潰しましたね。EDMみたいな手法で昔の音源を刻んだり、えぐったりということを意図的にやって作っているんです。

――アレンジではなく、以前の音源を踏み台にして全く別のものを作り出したということですか?
鷺巣 そうです。感覚的に『ベルセルク』というものを捉えてもらうために、劇場版のモチーフを材料にしているんです。登場人物たちも「蝕」を経験して様変わりしているけれど、音楽に残る過去のモチーフの既視感から、良き時代の印象がところどころに覗く感じにしたかった。


◆平沢音楽は『ベルセルク』のDNA

平沢 先程鷺巣さんが興味深いことを言われました。80年代のTVとこの時代のTVとは違うという考え方ですね。というのも、80年代のTVはシネマに憧れる廉価版として捉えられていて、視聴者もそういう態度でリアルタイムで観る。これがシネマになると、より公共的スペースで不特定多数が観る。そこには劇場サイズのクオリティと質感と空気感が必要なんです。『黄金時代篇』では鷺巣さんと一緒にお仕事をして、それが見事に出来上がっています。
――そして今回、再びTVで「灰よ」「Ash Crow」を作られましたが、前シリーズとの意識の違いはありましたか?
平沢 今のTVはリアルタイムで観ることが絶対条件ではなくなっている。映像は個人対応の1対1になっていくんです。そこにあるのは仮想的な環境、ある意味バーチャルリアリティ。その中で鷺巣さんは、観る人に対して個人対応で脅している。昔のTVの質感と明らかに違っていて、私も「Ash Crow」を作っていたら、平行遺伝なのかミームのようなものなのか、おそらく鷺巣さんが感じているであろうものが伝わってきました。「灰よ」も、作っている内に自分のリズムではなくなってきている。ある意味、何か一つを突破できたんです。

――鷺巣さんが加わったことで、音楽的な戦いはありましたか?
平沢 いえ、本心から一緒にお仕事をさせてもらって良かったと思っています。鷺巣さんは『ベルセルク』に新たな質感を与えてくださった。質感とは昔のままではいけないことを、作品をもって示された。勉強させていただいた気持ちです。そしてもし逆に鷺巣さんが劇中歌、私が劇伴だったら断ります。鷺巣さんの質感が土台にしっかり存在し、その上で平沢がちょこっと歌ものをやるという贅沢な環境を与えられたからこそできた仕事だと思っています。
鷺巣 『ベルセルク』にとって、平沢さんはDNAなんですよね。作品とともに受け継がれるものなんです。もし次に『ベルセルク』が映像になって、僕も平沢さんも関わることがなかったとしても、きっとそこには必ず平沢さんの音の質感が、DNAとして残ると思うんです。


◆レコーディングアートの生きた見本

鷺巣 平沢さんは曲を作る時、歌は自分で録られますか?
平沢 自分でラフミックスを作り、それを聴いたエンジニアがその通りに録っていますね。
鷺巣 リードとバッキングボーカルを分けると、バッキングボーカルは音声作成ソフトもお使いになりますか?
平沢 いえ。全部生声です。自分では「バカコーラス」と言ってますが、同じコーラスを何十人分も繰り返して録るんです。
鷺巣 リードも何回か録られていますか?
平沢 基本的にはダブルボーカルですね。機械を使わず2回録音します。バッキングコーラスも単純に低い方から一番高い方まで、これも基本的にはダブルボーカルですが、多い時には合計で40回くらいになってしまいます。だから「バカコーラス」なんです(笑)。
鷺巣 そのくらいは想定内でした(笑)。昔はそういう風に録っていくと、音が団子状になって飽和してしまうのですが、今は置き方さえしっかりしていけば綺麗に混ざってくれる。そこにセンスが集約されるんです。特に人の声の場合は、機材の設定とは違うように聴こえてしまう。
平沢 私が少し前のアナログ機材でやっていたのは、ジャックやカードの接点を故意に汚して予測不可能なノイズを作り出すとか、音楽的な行為ではありませんが、音楽を生き生きとさせるためには、音楽的な行為から逸脱することが有効なんです。
鷺巣 ところで平沢さんの「灰よ」など、一つの曲はデモの形になるまでどれくらいかかりましたか?
平沢 ケースバイケースですね。物理的な実作業で1週間くらいでしょうか。早いものはもっと早いですけど。あとテクニック面では、きっと鷺巣さんにはバレていると思いますが、生演奏では再現できないようなインチキな作り方をしている部分もあります。
鷺巣 それってレコーディングアートの面白さですよね。ミュージシャンにはリアリティ追求型と快楽追求型がいて、平沢さんが今仰ったのは快楽追求型です。例えばコーラスを40回も重ねるなんて、コンサートで再現するなら40人のコーラスがいなくてはならない(笑)。現実的ではないけれど、リアリティにばかり囚われていては面白いレコードは作れない。そこから離れてみると、違う未来が開けてくるんです。レコードだからこそ成立するアートですね。もちろん禁じ手を何でも破ればいいということではなく、そこにもセンスが必要です。そんな中、平沢さんの『ベルセルク』の多重録音はレコーディングアートの生きた見本なんです。リスナーの方には、そういう耳でも聴いて欲しいですね。
平沢 人は音楽が与えられた場合「こう聴きたい」という力が生まれるんです。「この音楽はこう聴きたい」「この場面ならこうに決まっている」とう感覚があって、実際にそのような音でなくても、視聴者の感覚で私の音楽は常に修正されているんです。特にギターは私のフレージングが完璧ではなく、音と音の間に入ってはいけない音ができてしまう。でも人はそこを補完して聴いてくれる。私の音楽は虚構の中に成立している面もあるんです。
鷺巣 いい意味で言うのですが、リスナーはファジーな耳を持っていて、耳の中で曲を完成させてくれるんですよ。極論を言うと、特にポップスなどはクラシックやジャズと違い、ファジーな耳がないと成り立たないんですよね。
平沢 音楽の役割の一つとして「感覚を更新させていく」という面があり、そこに恐らく私も鷺巣さんも快楽を感じているんです。そして私の場合、伝統的な音楽のお陰で自分の音楽が成り立って、伝統の上で更新するという詐欺行為をしているんですよ(笑)。
鷺巣 リスナーは「美しく騙されたい」という耳を持っていて、その需要が供給を成り立たせているんですよね。コンサートで目を瞑って聴いている方がいますが、それは視覚に囚われずに補完したいことがあるからなんです。そういうファジーな目であり耳であり、感情であるんです。


◆『ベルセルク』ファンへメッセージ

――それでは最後に『ベルセルク』ファンに向けてメッセージをお願いします。
鷺巣 長年憧れていた平沢さんと、こうしてお話をさせて頂ける機会を与えてくれた『ベルセルク』の導きに感謝しています。今回サントラの中で平沢さんとバーチャル共演をさせていただいたことが、自分にとって忘れ難いことです。一つのCDの中での共演は初めてのことなので、皆さんの反響を楽しみにしております。
平沢 『ベルセルク』をご縁に鷺巣さんと知り合うことができました。今回も引き続き、作品を盛り上げるための装置として、音楽という分野で頑張らせて頂きました。是非聴いて下さい。

――ありがとうございました。